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広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)の病態水準について

院長 丹羽 亮平 先生

名駅さこうメンタルクリニック
 院長 丹羽亮平

日本精神神経学会認定 精神科専門医
子どものこころ専門医
日本児童青年精神医学会 認定医
日本精神神経学会認定 精神科専門医制度指導医
厚生労働省 精神保健指定医
子どものこころ専門医機構 認定指導医
日本外来精神医学会 認定専門医

広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)の病態水準について

 

まずは病態水準の話に入る前に、DSMでの広汎性発達障害の診断について記載しておきます。

発達障害は,精神遅滞(mental retardation),学習障害(learning disorders),運動能力障害(motor skills disorder),コミュニケーション障害(communication disorders),広汎性発達障害(pervasive developmental disordersPDD)に分けられます。発達障害とは生来の障害であり、ある時に突然発生する疾患ではありません。診断するためには過去からの連続性を必ず確認する必要があります。

 

<診断基準>

 最初に国際的な診断分類によって,PDDの概念を整理します。精神医学における国際的な診断分類には,アメリカ精神医学会の診断統計マニュアル第4(DSM-Ⅳ-TR)(American Psychiatric Association, 2000)と世界保健機関の国際疾病分類第10(ICD-10)があり,基本的にはどちらかの診断基準に基づき日常臨床と研究は進められています。この両者は改訂を重ね,最新版では各疾患について類似した内容となっています。

日本では臨床的にはDSMを使うことの方が多いのではないかと思います。公的な診断書にはICDに基づいた診断名を記載することが多いと思います。

 

DSM-Ⅳ-TRによるPDD

PDDは発達のいくつかの面における重症で広範な障害として特徴づけられ,DSM-Ⅳ-TRでは自閉性障害,レット障害,小児期崩壊性障害,アスペルガー障害,特定不能の広汎性発達障害(PDDNOS)に分けられています。PDDとは,相互性対人関係の質的な問題,コミュニケーションの質的な問題,行動・興味の限定的,反復的で常同的な様式,の3つの領域に障害があることで特徴づけられます。この中でもっとも中核症状と考えられているのは、①の対人相互性の障害であり、PDDと診断するからには①は認められる必要があるのではないかと考えています。またそれぞれ疾患の連続性がありますので、診断基準上はどこかで線を引く必要がありますが、その時に重要な点があります。それは自閉症かそうでないのか、PDDなのか、そうでないのか、という二か所の部分を分けることが臨床上では意味があります。それは自閉症であれば早期療育が必要になりますし、PDDの枠に入るのであれば何か困りごとがあったときにそれがPDD特性からきている場合には疾患概念を理解しておく必要があるからです。

 

私が研修医終了後に入局した東海大学の精神科教室では、診断・治療は①DSMでの横断的な診断、病態水準、の2軸でするようにと教えていました。最近は精神科領域でもDSMでの診断に対して、科学的な根拠のある治療を提供する(主に薬物療法)が主流となっていると思います。もちろん科学的な根拠のある治療を提案することは非常に重要ですが、精神科である以上は必要な方に対しては病態水準を評価し、それに対するなんらかの心理療法的なアプローチを提案する必要はあるのではないかと思います。

 

今でもその時の考え方を利用して、日常の診察に向き合っています。

この前、レクシャーで上記の話をしていたら、発達障害にも同じようにやるのですか?と質問がありました。

 

もちろん発達障害自体は生来の障害ですが、精神病態はそれぞれで異なっています。神経症~精神病態まで区別する必要があり、発達障害自体の診断には関係ないですが、その人自体のアセスメントとしては非常に重要です。それは病態が異なれば精神療法的なアプローチは変わってくると思いますし、症状の出かたも異なってきます。それは発達障害に限らず、例えばDSMでうつ病の診断基準を満たしている場合でも、精神病態が軽いのか、重たいかによって、どのような治療を選択していくのかは異なってきます。薬物療法をスタートするタイミングも違ってきます。

またうつ病、不安障害、気分障害、統合失調症などの疾患が合併した時に、病態が分かっていないとどちらが主病態なのか判断するのが難しくなります。

 

例えば非常に妄想的な発言が増えてきた時に、もともと病態の悪いPDDであれば一時的な症状として精神病症状がでることがありますが、そうでなくて病態が軽いのであればうつ病や統合失調症など、異なる疾患が合併した可能性を考え、除外診断をしなくてはいけません。

 

また成人した方が一人で受診された場合、もし病態水準が重たいなら、本人が同意すれば母親(養育者)の方とお会いし、直接生育歴を確認した方がいいでしょう。それが難しければ母親に生育歴チェック表を書いてもらっています。どうしても無理な場合には本人からの振り返りを行ってもらいます。どのように生きてきたのかが分からないと、これからどのような生き方をしていくのか予測ができなくなってしまいます。また見立てをしておかなければ、途中で治療がうまくいかなくなった時、いつ、どの部分を見誤ったのかあとで振り返ることができなくなってしまいます。治療の軌道修正するためにも、過去の整理、横断的な診断、病態水準の見立て、未来の予測、これらを同時に行っておいた方がいいでしょう。

生育歴を正確に聴取することは、発達障害の診断にも必要であり、また精神病態の評価にも、精神療法的なアプローチにも必要ですから、治療が難渋している場合には一度どこかで生育歴を評価する必要があると思います。

 

つらつらと書いてきましたが、今回のテーマは発達障害の病態水準とテーマ決めましたが、本来はどの疾患でもDMSでの横断的な診断、病態水準の評価は必要です。病態水準を判断するためには、最低限の生育歴の情報は必要となります。症状ではなく、その人自体を診る、という心構えはいるのだろうと思います。

 

医療法人永朋会 理事長 加藤晃司