発達障害の薬物治療 オキシトシン点鼻薬の可能性
自閉症スペクタラム症に対する薬物療法についてこれまで3剤が認可されています。
· エビリファイ(アリピプラゾール)→自閉性障害に伴う易刺激性
· リスパダール(リスペリドン)→自閉性障害に伴う易刺激性
· オーラップ(ピモジド)→動き、情動、意欲、対人関係等にみられる異常行動、睡眠、食事、排泄、言語等にみられる病的症状、常同症等がみられる精神症状
これらの薬剤の効果は、自閉症スペクトラム症に伴う周辺症状に使われるものでした。
例えば、 かんしゃく、攻撃性、自傷行為、など
患者さんの症状や状況によりドンピシャに効果をもって日常生活が行いやすくなるケースも多々ある一方で、もともと統合失調症に対する内服薬であり、錐体外路症状、眠気、鎮静などの副作用も認められました。
(オーラップは重篤な副作用の多さ、他の薬剤との相互作用の関係で最近処方はされない印象です)
しかし、今回、将来的に自閉症スペクトラム症の中核症状に対して効果をもつオキシトシン薬剤が開発される可能性が報告されました。
自閉症スペクトラム症の中核症状とは以下になります。(DSM-5における診断基準からの抜粋)
1、相互の対人的・情緒関係の欠如
2、対人的相互反応で非言語的コミュニケーションを用いることの欠如
3、人間関係を発展させ、維持し、理解することの欠如
これらに対して、療育(SST、作業療法、児童発達支援など)、環境調節、疾病理解などを行ってきましたが、生化学的に症状の改善が期待されるのであれば、自閉症スペクトラムの治療が大きく前進するといえるでしょう。
課題は多数あるものの、今後の展開を期待しています。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
以降、国立研究開発法人日本医療研究開発機構のサイトを参考に抜粋しています。
→https://www.amed.go.jp/news/release_20180629-02.html
先日、名古屋大学の参加している共同研究チームにより大規模な臨床試験(※1)を行い、
自閉スペクトラム症(アスペルガー症候群、自閉症、発達障害などを含めた疾患概念。)における対人コミュニケーションの障害に対する初の治療薬として期待されるオキシトシン経鼻スプレーの有効性と安全性を世界で最初に検証されました。
また、国内では精神医学領域全体で見ても前例を見ない医師主導の無作為割付多施設大規模試験でした。
結論として、
『今回、対人場面での振る舞いから専門家が評価した対人コミュニケーションの障害に対するオキシトシンの効果はプラセボ効果を上回りませんでした。
しかし、オキシトシン投与に伴う変化についての客観的な指標である血中濃度の上昇は、プラセボ効果とは関係せずに、オキシトシンの効果と関連するという結果や、視線計測で評価した客観的な社会性の改善効果や常同行動と限定的興味に対するオキシトシンの投与効果は認めました。
これらの結果を総合すると、オキシトシンによる自閉スペクトラム症の主な症状の改善は期待されるものの、対人場面に現れる対人コミュニケーションの障害そのものに対する有効性を示す上では検討すべき事項が残されていることが示されました。』
※1 この研究は、浜松医科大学精神医学講座と、東京大学、名古屋大学、福井大学、金沢大学との共同研究で、文部科学省「脳科学研究戦略推進プログラム」の「精神・神経疾患の克服を目指す脳科学研究(課題F):発達障害研究チーム(拠点長:名古屋大学・尾崎紀夫)」および、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)脳科学研究戦略推進プログラム『臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(融合脳):発達障害・統合失調症研究チーム(チーム長:浜松医科大学・山末英典)』の一環として行われました。
名駅さこうメンタルクリニック
院長 丹羽亮平