精神症状と鉄欠乏の可能性
♠貧血と鉄欠乏は同じではありません。
「体がだるい」「イライラする」「ふらつき」「めまい」など不定愁訴に対して、患者さんから「貧血かもしれない」と聞く機会が多くあります。
貧血とは医学的に通常ヘモグロビン濃度が低い状態をいいます。
そこで患者さんに採血検査を行った結果、ヘモグロビン値が正常値を示す際はおおむね「貧血」は否定されます。
(採血にて、甲状腺疾患など他の精神症状を認めうる疾患のチェックもします。)
しかし、ヘモグロビン値が正常でも「鉄欠乏」の可能性があります。
鉄は体内では、赤血球の中にある鉄(ヘモグロビンが指標)と赤血球以外にある貯蔵鉄(フェリチンが指標)に分けられます。
鉄は体内にて取り込まれると優先的に赤血球(ヘモグロビン)に使われるため、ヘモグロビンは正常値でも、フェリチンは少ない鉄不足の状態が起こりうるわけです。
♠【貧血にて起こりうる症状】
ヘモグロビンが減少すると体内に酸素を十分に送ることができなくなるため、動悸、息切れ、めまい、頭痛、全身の疲れやすさなど、さまざまな症状があらわれます。
♠【鉄欠乏にて起こりうる症状】
・鉄は皮膚、骨、軟骨などの代謝(コラーゲンの生成)に関わるため、不足すると、爪が薄く割れやすい、髪が抜けやすい、内出血しやすい、といった症状がでます。
・セロトニン、ドパミンなどの脳内の神経伝達物質の原料であるため、これらの減少に伴う症状が起こりえます。
深刻な鉄不足患者に異食症(氷や土を食べる)を認めることはこのことが関連していると考えています。
・全身でエネルギーを作るミトコンドリアの働きには鉄が必要です。
鉄不足にてミトコンドリア回路の機能異常に伴うエネルギー不足症状(疲れやすい、やる気がでない等)が起こりえます。
・鉄欠乏性貧血に至ると貧血の症状もプラスされます。
最近栄養学を学ぶにつけ、健康的な日常生活のためには、改めて食事が大事であることを痛感しています。
クリニックでは治療として、内服薬や心理カウンセリング、訪問看護、多種の作業療法を提案していますが、身体の土台作りになる食事についても並行して考えるきっかけになればと思います。
参照:奥平智之「ココロの不調回復 食べてうつぬけ」
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当院では栄養士による栄養指導が受けられます。
名駅さこうメンタルクリニック院長
丹羽亮平